【陸海空に次ぐ戦場】宇宙やサイバー空間も対象にした防衛計画 

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宇宙・サイバー空間は陸海空に次ぐ第4、第5の「戦場」と位置付けられていて、既に司令部機能のある専門組織を保有している他国軍と比べ日本は立ち遅れています。安全保障上の新たな課題への対応を強化するため、政府は新たな「防衛計画の大綱」の策定に向けて、有識者による初会合を今月29日にも開きます。

新「防衛計画の大綱」のため防衛力整備の在り方を検討

政府は防衛力整備の指針となる新たな「防衛計画の大綱」を年末を目指して策定する方針で、国民の理解を得るためには幅広い視点が必要だとして、学識経験者や防衛省・自衛隊の元幹部など、有識者から意見を聞く懇談会を設けることにしています。

この有識者の懇談会について、政府は今月29日にも安倍総理大臣や小野寺防衛大臣も出席して、初会合を開く方針を固めました。

懇談会では、従来の陸上や海上、空域にとどまらず、宇宙やサイバー空間も対象にした防衛力整備の在り方を検討することにしています。

(NHK NEWS WEB)

宇宙・サイバー空間は「陸海空に次ぐ戦場」

防衛省がサイバー防衛や宇宙監視の分野の能力向上を急いでいる。防衛省内に司令部機能を持つ専門組織の新設を検討するほか、サイバー防衛に従事する人員も2018年度に約4割増やし150人体制とする。宇宙やサイバーは陸海空に次ぐ「第4、第5の戦場」とも言われ、各国の攻防が激しさを増す。18年中に見直す防衛大綱の議論でも焦点になる。司令部機能を持つ組織は、陸海空の3自衛隊から要員を集め、早ければ20年にも発足させる。各部隊を統括する海自の自衛艦隊、空自の航空総隊などと同格の扱いとすることを想定。サイバー攻撃への対処にあたる専門人員「サイバー防衛隊」や宇宙監視の部隊などを束ねる。

人員の増強も進める。18年度にサイバー防衛隊を現状の約110人から150人に増やし、19年度以降もさらに拡充する方針だ。

宇宙分野では、22年度に宇宙状況を監視する専用部隊を新設。デブリなどを監視できる専用レーダーを海上自衛隊の山陽受信所跡地(山口県山陽小野田市)に配備する。

 

各国で宇宙やサイバー分野での攻防が激しくなっているため、体制の確立が急がれています

2017年6月、ウクライナを中心に身代金要求型ウイルス(ランサムウエア)による激しいサイバー攻撃を受け、クレジットカードの決済システムや地下鉄の支払いシステム、空港の電光掲示板などが機能停止。米ホワイトハウスは一連の攻撃はロシア軍によるものと断定する声明を発表。
宇宙空間では、中国による衛星破壊実験や、人工衛星の衝突などによりデブリが増加。衛星が衝突すれば、損傷して機能を失う危険があるため対策の必要性が高まっている。
各国はこうした現状を踏まえ対策を強化。米国は18年9月までにサイバー攻撃に対応する部隊を15年比で3倍の6200人規模に拡大する方針。
北大西洋条約機構(NATO)は今後、サイバー攻撃への防衛力向上に向けた司令センターを新設して、多国間の連携を進める。

 

日本は海外と比べて対応が遅れているとの指摘が多く、サイバーや宇宙分野の先進国との連携も進める

安倍首相は2018年1月にバルト3国を訪問。エストニアのラタス首相と会談し、サイバー防衛などの情報を共有する「日バルト協力対話」を立ち上げることを提案しました。宇宙分野では、1月下旬の日仏の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)で協力を進めると確認しました。

エストニアはサイバー防衛の分野で国際的なイニシアティブを発揮している。2007年に世界で初めての大規模なサイバー攻撃を受けた際の対応、及びサイバー防衛の重要性を世界に訴えたことにより、翌年にエストニア側のイニシアティブで(首都)タリンにNATOサイバー防衛協力センターが設立された。

 

(日経新聞電子版)

 

防衛計画の大綱(ぼうえいけいかくのたいこう)は、日本における安全保障政策の基本的指針。概ね10年後までを念頭に置き、中長期的な視点で日本の安全保障政策や防衛力の規模を定めた指針で、これに基づいて5年ごとの具体的な政策や装備調達量を定めた中期防衛力整備計画が策定される。
デブリ(スペースデブリ: space debris)または宇宙ゴミとは、意味がある活動を行うことなく地球の衛星軌道上を周回している人工物体のことである。宇宙開発に伴ってその数は年々増え続け、対策が必要となってきている。

 

宇宙開発利用を重視、防衛省とJAXAの協力強化へ

小野寺防衛大臣は7月2日にJAXA筑波宇宙センターを視察した際に、現在見直しを進めている防衛計画の大綱および中期防衛力整備計画において、宇宙空間の活用が新たな防衛分野として重要な検討課題だとして、JAXAとの協力関係を一層強化させたい考えを示しました。そしてJAXAと防衛省が連携して進めている宇宙状況監視(SSA)についても「安全保障関連での宇宙開発利用を深化させたい」と述べました。(2018年7月2日)

大臣は、防衛省・自衛隊での宇宙分野の取組みについて、宇宙基本計画に沿ったかたちで、JAXAの知見を活用してきたことを説明。さらに、宇宙空間の活用は重要な検討課題だとして、「JAXAの保有する様々な技術的な知見などを活用することが、これまで以上に重要になってきている」と述べ、防衛省にとってJAXAとの連携が今後重要になることを説明した。
また、JAXAが取り組む研究・開発について「すべての分野において、防衛省・自衛隊が、今後、積極的に検討すべき内容が多かった」として、視察の成果を説明。特に、すでに取組みを進めているSSAでは、山口県山陽小野田市に2022(平成34)年を目標に施設の設立を目指しているため「宇宙の安定的な利用のためにも、この分野に積極的に関わっていきたい」との考えを示した。
SSAに関して、防衛省では自衛隊へ専門部隊を設置する計画だが、SSAの重要性について、スペース・デブリと呼ばれる宇宙ゴミが国際社会の中で大きな問題となっていることや、車の自動運転など新しい技術の基礎が宇宙の安定利用になることを説明した。また防衛の面でも弾道ミサイル防衛などでも宇宙空間を利用しているとした。その上で小野寺大臣は「国際社会と協力して宇宙の安定利用のための役割、また、アジア地域での宇宙状況監視を日米で共有することで、重要な知見を得ることができる」と語った。

航空新聞社

JAXA 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構Japan Aerospace eXploration Agency, JAXA)は、日本の宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行う機関です。
宇宙状況監視(SSA: Space Situational Awareness)とは安定的に宇宙空間を利用するため、不審な衛星やスペースデブリ(宇宙ゴミ)をレーダーや光学望遠鏡などで探知・識別し、専用のシステムでこれらの軌道を解析してカタログ化すること。軌道上で接近するスペースデブリと人工衛星の衝突を回避することなどを目的としています。宇宙開発利用国の増加などに伴い、宇宙空間から自衛隊の能力を推察する機能を保持する国が増加しているほか、人工衛星を損傷しうるスペースデブリが増加の一途をたどっていることに加え、対衛星攻撃兵器など衛星機能を阻害する技術なども進展していることが大きな要因となっています。

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小野寺大臣はJAXAの視察で、スペース・デブリ解析室で勤務する航空自衛官を激励したほか、航空自衛官から宇宙飛行士になった油井亀美也氏と国際宇宙ステーションに関連する取り組みについて意見交換を行いました。

 

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小野寺大臣と意見交換する油井宇宙飛行士 (写真 : 航空自衛隊)

防衛大臣の宇宙航空研究開発機構(JAXA)視察に伴う航空幕僚長の随行について

 

また、宇宙飛行士の若田光一氏もTwitterでメッセージを寄せました

SSA関連施設

防衛白書 宇宙空間における対応(防衛省)

 

課題はITや宇宙に精通した人材育成

防衛省・自衛隊では人材育成と確保、情報収集機能の強化、訓練環境の整備などに取り組み、サイバー攻撃対処能力の強化に努める方向性を示しています。

IT(情報技術)や宇宙分野に精通した専門人材は自衛隊内部には少ない。防衛省幹部は「システムや装備は予算を投じれば導入できるが、人材の育成には時間がかかる」と指摘する。外部から人材を招くことも検討するが、専門知識を持つ人材は民間企業でも厚待遇のため「公務員の給与体系では確保に限界がある」(防衛省関係者)のが実情だ。

(日経新聞電子版)

自衛隊がサイバー防衛力の強化に向けて、民間人のリクルートを加速している。防衛省の政務官は「来年度にも日本で5本の指に入る情報セキュリティー専門家を事務次官級の待遇で迎え入れたい」と明言した。年収2300万円程度でトップレベルの人材を確保するという。サイバー攻撃と物理的な武力攻撃を組み合わせた「ハイブリッド戦争」への対応能力を高める狙いだ。

(日経ビジネス 2018年8月27日号)

 

 

 

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宇宙利用のイメージ(防衛省)

 

 

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