【防衛大綱閣議決定】多次元統合防衛力の構築、自衛官の待遇改善を明記 

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新たな防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画が決定 

政府は12月18日の閣議で、新たな防衛計画の大綱と、2019年度から5年間の中期防衛力整備計画(中期防)を決定しました。新しい防衛力の概念として「多次元統合防衛力」を打ち出し、宇宙やサイバー、電磁波を扱う電子戦の能力を高め、陸海空の自衛隊が一体で対処する統合運用を進めるということです。5年間の防衛費は27兆4700億円と過去最大を更新。

要望の高かった自衛官の待遇改善も明記されました。

要点記事の下に全文掲載しています。

 

新大綱は安全保障環境について、中国の台頭による「パワーバランスの変化」を強調し「既存の秩序をめぐる不確実性が増している」と警鐘を鳴らした。平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」の長期化や、戦争の様相を決定的に変える「ゲームチェンジャー」の開発に各国が注力している点も特記した。

こうした変化に対応するため、新大綱では陸海空3自衛隊の一体的運用の範囲を宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域にまで広げる「多次元統合防衛力」を基本概念に掲げた。現代戦では宇宙やサイバー分野での優位性確保が「死活的に重要」と指摘し、防衛力強化の最優先事項に挙げた。

 海空優勢を獲得・維持するため、新装備の取得も進める。短距離滑走での離陸と垂直着陸が可能なF35B最新鋭ステルス戦闘機18機の導入や「いずも」型護衛艦を空母化する改修を行う方針を示した。周辺海域の警戒監視能力を強化するため、海中を自動航行して情報収集する水中ドローン(無人潜水機)の研究開発も進める。敵基地攻撃にも使える長射程の「スタンドオフ防衛能力」や、弾道・巡航ミサイルを迎撃する「総合ミサイル防空能力」の整備も強化する。

 一方、中期防には5年間の防衛費について、総額27兆4700億円を盛り込んだ。前中期防から約3兆円の増額となる。2030年代に退役を迎えるF2戦闘機の後継に関しては「日本主導の開発に早期に着手する」とした。近代化改修に適さないF15戦闘機に代わり、F35A戦闘機を増強する方針も示した。

新防衛大綱 防衛力の「抜本強化」と「役割拡大」(産経新聞)

 

 

護衛艦「いずも」事実上の空母化決定

大綱は中国の軍事力増強などを念頭に「地域と国際社会の安全保障上の強い懸念」を記した。北朝鮮に関しては「重大かつ差し迫った脅威」と指摘した。いずれも従来の認識を変えなかった。

海上自衛隊の護衛艦「いずも」型を改修し、短い滑走で離陸し垂直着陸できる戦闘機「F35B」を運用する方針も示した。事実上の空母化だが、「ヘリコプター搭載型護衛艦」との分類は踏襲していく。陸上自衛隊の定員は15万9000人を維持する。

中期防で定めた5年間で27兆4700億円の総額は14~18年度の現計画より3兆円近い増額になる。貿易赤字を問題視するトランプ米大統領に配慮し、高額な防衛装備品を購入する方針を盛り込んだ。

最新鋭ステルス戦闘機F35は追加購入する。F35にはすでに国内配備しているA型と、改修後のいずもで運用可能なB型がある。18日には中期防にあわせて合計で105機を追加する計画を決める。価格は1機あたり100億円規模で総額で1兆円超に上る。

陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」は2基導入する。価格は2400億円超の見込みだ。

(日本経済新聞)

 

 

自衛官の待遇改善がしっかりと明記されました

防衛力の中核は自衛隊員であり、自衛隊員の人材確保と能力・士気の向上は防衛力の強化に不可欠である。これらは人口減少と少子高齢化の急速な進展によって喫緊の課題となっており、防衛力の持続性・強靱(きょうじん)性の観点からも、自衛隊員を支える人的基盤の強化をこれまで以上に推進していく必要がある。

このため、地方公共団体等との連携を含む募集施策の推進、大卒者等を含む採用層の拡大や女性の活躍推進のための取組、自衛官の定年年齢の適切な引き上げや退職自衛官の活用、予備自衛官等の活用や充足向上のための取組といった、より幅広い層から多様かつ優秀な人材を確保するための制度面を含む取組に加え、人工知能等の技術革新の成果を活用した無人化・省人化を推進する。

また、全ての自衛隊員が高い士気を維持し自らの能力を十分に発揮し続けられるよう、生活・勤務環境の改善を図るとともに、ワークライフバランスの確保のため、防衛省・自衛隊における働き方改革を推進する。

さらに、統合教育・研究の強化等、自衛隊の能力およびその一体性を高めるための教育・研究の充実を促進するほか、防衛省・自衛隊の組織マネジメント能力に関する教育の強化を図る。これらに加え、栄典・礼遇に関する施策の推進、任務の特殊性等を踏まえた給与面の改善といった処遇の向上や、若年定年退職制度の下にある自衛官の生活基盤の確保が国の責務であることを踏まえた再就職支援の一層の充実を図る。

 

 

 

防衛大綱 全文

 

平成31年度以降に係る防衛計画の大綱

I 策定の趣旨

わが国は、戦後一貫して、平和国家としての道を歩んできた。これは、平和主義の理念の下、先人達の不断の努力によって成し遂げられてきたものである。

わが国政府の最も重大な責務は、わが国の平和と安全を維持し、その存立を全うするとともに、国民の生命・身体・財産、そして、領土・領海・領空を守り抜くことである。これは、わが国が独立国家として第一義的に果たすべき責任であり、わが国が自らの主体的・自主的な努力によってかかる責任を果たしていくことが、わが国の安全保障の根幹である。わが国の防衛力は、これを最終的に担保するものであり、平和国家であるわが国の揺るぎない意思と能力を明確に示すものである。そして、わが国の平和と安全が維持されることは、わが国の繁栄の不可欠の前提である。

現在、わが国を取り巻く安全保障環境は、極めて速いスピードで変化している。国際社会のパワーバランスの変化は加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性は増大している。また、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域の利用の急速な拡大は、陸・海・空という従来の物理的な領域における対応を重視してきたこれまでの国家の安全保障の在り方を根本から変えようとしている。

わが国は、その中にあっても、平和国家としてより力強く歩んでいく。そのためには、激変する安全保障環境の中、わが国自身が、国民の生命・身体・財産、領土・領海・領空、そして、主権・独立は主体的・自主的な努力によって守る体制を抜本的に強化し、自らが果たし得る役割の拡大を図っていく必要がある。今や、どの国も一国では自国の安全を守ることはできない。日米同盟や各国との安全保障協力の強化は、わが国の安全保障にとって不可欠であり、わが国自身の努力なくしてこれを達成することはできない。国際社会もまた、わが国が国力にふさわしい役割を果たすことを期待している。

今後の防衛力の強化に当たっては、以上のような安全保障の現実に正面から向き合い、従来の延長線上ではない真に実効的な防衛力を構築するため、防衛力の質および量を必要かつ十分に確保していく必要がある。特に、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域については、わが国としての優位性を獲得することが死活的に重要となっており、陸・海・空という従来の区分に依拠した発想から完全に脱却し、全ての領域を横断的に連携させた新たな防衛力の構築に向け、従来とは抜本的に異なる速度で変革を図っていく必要がある。一方、急速な少子高齢化や厳しい財政状況を踏まえれば、過去にとらわれない徹底した合理化なくして、かかる防衛力の強化を実現することはできない。

日米同盟は、わが国自身の防衛体制とあいまって、引き続きわが国の安全保障の基軸であり続ける。上述のとおり、わが国が独立国家としての第一義的な責任をしっかりと果たしていくことこそが、日米同盟の下でのわが国の役割を十全に果たし、その抑止力と対処力を一層強化していく道であり、また、自由で開かれたインド太平洋というビジョンを踏まえ、安全保障協力を戦略的に進めていくための基盤である。

このような考え方の下、「国家安全保障戦略について」(平成25年12月17日国家安全保障会議および閣議決定。以下「国家安全保障戦略」という。)を踏まえ、わが国の未来の礎となる防衛の在るべき姿について、「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」として、新たな指針を示す。

II わが国を取り巻く安全保障環境

1 現在の安全保障環境の特徴

国際社会においては、国家間の相互依存関係が一層拡大・深化する一方、中国等の更なる国力の伸長等によるパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性が増している。こうした中、自らに有利な国際秩序・地域秩序の形成や影響力の拡大を目指した、政治・経済・軍事にわたる国家間の競争が顕在化している。

このような国家間の競争は、軍や法執行機関を用いて他国の主権を脅かすことや、ソーシャル・ネットワーク等を用いて他国の世論を操作することなど、多様な手段により、平素から恒常的に行われている。また、いわゆるグレーゾーンの事態は、国家間の競争の一環として長期にわたり継続する傾向にあり、今後、さらに増加・拡大していく可能性がある。こうしたグレーゾーンの事態は、明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらんでいる。さらに、いわゆる「ハイブリッド戦」のような、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法は、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いている。

また、情報通信等の分野における急速な技術革新に伴い、軍事技術の進展は目覚ましいものとなっている。こうした技術の進展を背景に、現在の戦闘様相は、陸・海・空のみならず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を組み合わせたものとなり、各国は、全般的な軍事能力の向上のため、新たな領域における能力を裏付ける技術の優位を追求している。宇宙領域やサイバー領域は、民生分野でも広範に活用されており、この安定的な利用が妨げられれば、国家・国民の安全に重大な影響が及ぶおそれがある。

軍事技術の進展により、現在では、さまざまな脅威が容易に国境を越えてくるものとなっている。さらに、各国は、ゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術を活用した兵器の開発に注力するとともに、人工知能(AI)を搭載した自律型の無人兵器システムの研究にも取り組んでいる。今後の更なる技術革新は、将来の戦闘様相をさらに予見困難なものにするとみられる。

国際社会においては、一国のみでの対応が困難な安全保障上の課題が広範化・多様化している。宇宙領域やサイバー領域に関しては、国際的なルールや規範作りが安全保障上の課題となっている。海洋においては、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づいて自国の権利を一方的に主張し、又は行動する事例がみられ、公海における自由が不当に侵害される状況が生じている。また、核・生物・化学兵器等の大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散および深刻化する国際テロは、引き続き、国際社会にとっての重大な課題である。

こうした中、わが国の周辺には、質・量に優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化の傾向が顕著となっている。

2 各国の動向

米国は、依然として世界最大の総合的な国力を有しているが、あらゆる分野における国家間の競争が顕在化する中で、世界的・地域的な秩序の修正を試みる中国やロシアとの戦略的競争が特に重要な課題であるとの認識を示している。

米国は、軍事力の再建のため、技術革新等による全ての領域における軍事的優位の維持、核抑止力の強化、ミサイル防衛能力の高度化等に取り組んでいる。また、同盟国やパートナー国に対しては、防衛のコミットメントを維持し、戦力の前方展開を継続するとともに、責任分担の増加を求めている。さらに、インド太平洋地域を優先地域と位置付け、同盟とパートナーシップを強化するとの方針を掲げている。

また、米国を始めとする北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、力を背景とした現状変更や「ハイブリッド戦」に対応するため、戦略の再検討等を行うとともに、安全保障環境の変化等を踏まえ、国防費を増加させてきている。

中国は、今世紀中葉までに「世界一流の軍隊」を建設することを目標に、透明性を欠いたまま、高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している。その際、指揮系統の混乱等を可能とするサイバー領域や電磁波領域における能力を急速に発展させるとともに、対衛星兵器の開発・実験を始めとする宇宙領域における能力強化も継続するなど、新たな領域における優勢の確保を重視している。また、ミサイル防衛を突破するための能力や揚陸能力の向上を図っている。このような軍事能力の強化は、周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する軍事能力、いわゆる「接近阻止/領域拒否」(A2/AD)能力の強化や、より遠方での作戦遂行能力の構築につながるものである。これらに加え、国防・科学技術・工業の軍民融合政策を推進するとともに、軍事利用が可能とされる先端技術の開発・獲得に積極的に取り組んでいる。このほか、海上法執行機関と軍との間では連携が強化されている。

中国は、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした一方的な現状変更を試みるとともに、東シナ海を始めとする海空域において、軍事活動を拡大・活発化させている。わが国固有の領土である尖閣諸島周辺においては、わが国の強い抗議にもかかわらず公船による断続的な領海侵入や海軍艦艇による恒常的な活動等を行っている。太平洋や日本海においても軍事活動を拡大・活発化させており、特に、太平洋への進出は近年高い頻度で行われ、その経路や部隊構成が多様化している。南シナ海においては、大規模かつ急速な埋立てを強行し、その軍事拠点化を進めるとともに、海空域における活動も拡大・活発化させている。

こうした中国の軍事動向等については、国防政策や軍事力の不透明性とあいまって、わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。中国には、地域や国際社会において、より協調的な形で積極的な役割を果たすことが強く期待される。

北朝鮮は、近年、前例のない頻度で弾道ミサイルの発射を行い、同時発射能力や奇襲的攻撃能力等を急速に強化してきた。また、核実験を通じた技術的成熟等を踏まえれば、弾道ミサイルに搭載するための核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる。北朝鮮は、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を表明し、核実験場の爆破を公開する等の動きは見せたものの、全ての大量破壊兵器およびあらゆる弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄は行っておらず、北朝鮮の核・ミサイル能力に本質的な変化は生じていない。

また、北朝鮮は、非対称的な軍事能力として、サイバー領域について、大規模な部隊を保持するとともに、軍事機密情報の窃取や他国の重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられる。これらに加え、大規模な特殊部隊を保持している。

このような北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域および国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっている。国際社会も、国際連合安全保障理事会決議において、北朝鮮の核および弾道ミサイル関連活動が国際の平和および安全に対する明白な脅威であるとの認識を明確にしている。

ロシアは、核戦力を中心に軍事力の近代化に向けた取組を継続することで軍事態勢の強化を図っており、ウクライナ情勢等をめぐり、欧米と激しく対立している。また、北極圏、欧州、米国周辺、中東に加え、北方領土を含む極東においても軍事活動を活発化させる傾向にあり、その動向を注視していく必要がある。

3 わが国の特性

四面環海で長い海岸線を持つわが国は、本土から離れた多くの島嶼(とうしょ)および広大な排他的経済水域を有しており、そこには守り抜くべき国民の生命・身体・財産、領土・領海・領空および各種資源が広く存在している。また、海洋国家であり、資源や食料の多くを海外との貿易に依存するわが国にとって、法の支配、航行の自由等の基本的ルールに基づく、「開かれ安定した海洋」の秩序を強化し、海上交通および航空交通の安全を確保することが、平和と繁栄の基礎である。

一方、わが国は、大きな被害を伴う自然災害が多発することに加え、都市部に産業・人口・情報基盤が集中するとともに、沿岸部に原子力発電所等の重要施設が多数存在している。

これらに加えて、わが国においては、人口減少と少子高齢化が経験をしたことのない速度で急速に進展しているとともに、厳しい財政状況が続いている。

4 まとめ

以上を踏まえると、今日のわが国を取り巻く安全保障環境については、冷戦期に懸念されていたような主要国間の大規模武力紛争の蓋然性は引き続き低いと考えられる一方、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成25年12月17日国家安全保障会議および閣議決定。以下「前大綱」という。)を策定した際に想定したものよりも、格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増している。

わが国に対する脅威が現実化し、国民の命と平和な暮らしを脅かすことを防ぐためには、この現実を踏まえた措置を講ずることが必要となっている。

III わが国の防衛の基本方針

わが国は、国家安全保障戦略を踏まえ、積極的平和主義の観点から、わが国自身の外交力、防衛力等を強化し、日米同盟を基軸として、各国との協力関係の拡大・深化を進めてきた。また、この際、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本方針に従い、文民統制を確保し、非核三原則を守ってきた。

今後とも、わが国は、こうした基本方針等の下で、平和国家としての歩みを決して変えることはない。その上で、わが国は、これまでに直面したことのない安全保障環境の現実の中でも、国民の生命・身体・財産、領土・領海・領空および主権・独立を守り抜くといった、国家安全保障戦略に示した国益を守っていかなければならない。このため、わが国の防衛について、その目標およびこれを達成するための手段を明示した上で、これまで以上に多様な取組を積極的かつ戦略的に推進していく。

防衛の目標として、まず、平素から、わが国が持てる力を総合して、わが国にとって望ましい安全保障環境を創出する。また、わが国に侵害を加えることは容易ならざることであると相手に認識させ、脅威が及ぶことを抑止する。さらに、万が一、わが国に脅威が及ぶ場合には、確実に脅威に対処し、かつ、被害を最小化する。

これらの防衛の目標を確実に達成するため、その手段であるわが国自身の防衛体制、日米同盟および安全保障協力をそれぞれ強化していく。これは、格段に変化の速度を増し、複雑化する安全保障環境に対応できるよう、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における優位性を早期に獲得することを含め、迅速かつ柔軟に行っていかなければならない。

また、核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、わが国は、その信頼性の維持・強化のために米国と緊密に協力していくとともに、総合ミサイル防空や国民保護を含むわが国自身による対処のための取組を強化する。同時に、長期的課題である核兵器のない世界の実現へ向けて、核軍縮・不拡散のための取組に積極的・能動的な役割を果たしていく。

1 わが国自身の防衛体制の強化

(1)総合的な防衛体制の構築

これまでに直面したことのない安全保障環境の現実に正面から向き合い、防衛の目標を確実に達成するため、あらゆる段階において、防衛省・自衛隊のみならず、政府一体となった取組および地方公共団体、民間団体等との協力を可能とし、わが国が持てる力を総合する防衛体制を構築する。特に、宇宙、サイバー、電磁波、海洋、科学技術といった分野における取組および協力を加速するほか、宇宙、サイバー等の分野の国際的な規範の形成に係る取組を推進する。

わが国が有するあらゆる政策手段を体系的に組み合わせること等を通じ、平素からの戦略的なコミュニケーションを含む取組を強化する。

有事やグレーゾーンの事態等の各種事態に対しては、文民統制の下、これまでも態勢の強化に努めてきたが、今後、政治がより強力なリーダーシップを発揮し、迅速かつ的確に意思決定を行うことにより、政府一体となってシームレスに対応する必要があり、これを補佐する態勢も充実させる。また、国民の生命・身体・財産を守る観点から、各種災害への対応および国民の保護のための体制を引き続き強化し、地方公共団体と連携して避難施設の確保に取り組むとともに、緊急事態における在外邦人等の迅速な退避および安全の確保のために万全の態勢を整える。さらに、電力、通信といった国民生活に重要なインフラや、サイバー空間を守るための施策を進める。

以上の取組に加え、各種対応を的確に行うため、平素から、関連する計画等の体系化を図りつつ、それらの策定又は見直しを進めるとともに、シミュレーションや総合的な訓練・演習を拡充し、対処態勢の実効性を高める。

(2)わが国の防衛力の強化

ア 防衛力の意義・必要性

防衛力は、わが国の安全保障を確保するための最終的な担保であり、わが国に脅威が及ぶことを抑止するとともに、脅威が及ぶ場合にはこれを排除し、独立国家として国民の生命・身体・財産とわが国の領土・領海・領空を主体的・自主的な努力により守り抜くという、わが国の意思と能力を表すものである。

同時に、防衛力は、平時から有事までのあらゆる段階で、日米同盟におけるわが国自身の役割を主体的に果たすために不可欠のものであり、わが国の安全保障を確保するために防衛力を強化することは、日米同盟を強化することにほかならない。また、防衛力は、諸外国との安全保障協力におけるわが国の取組を推進するためにも不可欠のものである。

このように、防衛力は、これまでに直面したことのない安全保障環境の現実の下で、わが国が独立国家として存立を全うするための最も重要な力であり、主体的・自主的に強化していかなければならない。

イ 真に実効的な防衛力-多次元統合防衛力

厳しさを増す安全保障環境の中で、軍事力の質・量に優れた脅威に対する実効的な抑止および対処を可能とするためには、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域と陸・海・空という従来の領域の組合せによる戦闘様相に適応することが死活的に重要になっている。

このため、今後の防衛力については、個別の領域における能力の質および量を強化しつつ、全ての領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により全体としての能力を増幅させる領域横断(クロス・ドメイン)作戦により、個別の領域における能力が劣勢である場合にもこれを克服し、わが国の防衛を全うできるものとすることが必要である。

また、不確実性を増す安全保障環境の中で、わが国を確実に防衛するためには、平時から有事までのあらゆる段階における活動をシームレスに実施できることが重要である。これまでも、多様な活動を機動的・持続的に行い得る防衛力の構築に努めてきたが、近年では、平素からのプレゼンス維持、情報収集・警戒監視等の活動をより広範かつ高頻度に実施しなければならず、このため、人員、装備等に慢性的な負荷がかかり、部隊の練度や活動量を維持できなくなるおそれが生じている。

このため、今後の防衛力については、各種活動の持続性・強靱(きょうじん)性を支える能力の質および量を強化しつつ、平素から、事態の特性に応じた柔軟かつ戦略的な活動を常時継続的に実施可能なものとすることが必要である。

さらに、わが国の防衛力は、日米同盟の抑止力および対処力を強化するものであるとともに、多角的・多層的な安全保障協力を推進し得るものであることが必要である。

以上の観点から、今後、わが国は、統合運用による機動的・持続的な活動を行い得るものとするという、前大綱に基づく統合機動防衛力の方向性を深化させつつ、宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする、真に実効的な防衛力として、多次元統合防衛力を構築していく。

 

(3)防衛力が果たすべき役割

わが国の防衛力は、わが国にとって望ましい安全保障環境を創出するとともに、脅威を抑止し、これに対処するため、以下の役割をシームレスかつ複合的に果たせるものでなければならない。特に、国民の命と平和な暮らしを守る観点から、平素からさまざまな役割を果たしていくことがこれまで以上に重要である。

ア 平時からグレーゾーンの事態への対応

積極的な共同訓練・演習や海外における寄港等を通じて平素からプレゼンスを高め、わが国の意思と能力を示すとともに、こうした自衛隊の部隊による活動を含む戦略的なコミュニケーションを外交と一体となって推進する。また、全ての領域における能力を活用して、我が国周辺において広域にわたり常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動(以下「常続監視」という。)を行うとともに、柔軟に選択される抑止措置等により事態の発生・深刻化を未然に防止する。これら各種活動による態勢も活用し、領空侵犯や領海侵入といった我が国の主権を侵害する行為に対し、警察機関等とも連携しつつ、即時に適切な措置を講じる。

 

弾道ミサイル等の飛来に対しては、常時持続的に我が国を防護し、万が一被害が発生した場合にはこれを局限する。

イ 島嶼(とうしょ)部を含むわが国に対する攻撃への対応

島嶼部を含むわが国への攻撃に対しては、必要な部隊を迅速に機動・展開させ、海上優勢・航空優勢を確保しつつ、侵攻部隊の接近・上陸を阻止する。海上優勢・航空優勢の確保が困難な状況になった場合でも、侵攻部隊の脅威圏の外から、その接近・上陸を阻止する。万が一占拠された場合には、あらゆる措置を講じて奪回する。

ミサイル、航空機等の経空攻撃に対しては、最適の手段により、機動的かつ持続的に対応するとともに、被害を局限し、自衛隊の各種能力および能力発揮の基盤を維持する。

ゲリラ・特殊部隊による攻撃に対しては、原子力発電所等の重要施設の防護並びに侵入した部隊の捜索および撃破を行う。

ウ あらゆる段階における宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応

平素から、宇宙・サイバー・電磁波の領域において、自衛隊の活動を妨げる行為を未然に防止するために常時継続的に監視し、関連する情報の収集・分析を行う。かかる行為の発生時には、速やかに事象を特定し、被害の局限、被害復旧等を迅速に行う。

わが国への攻撃に際しては、こうした対応に加え、宇宙・サイバー・電磁波の領域を活用して攻撃を阻止・排除する。

また、社会全般が宇宙空間やサイバー空間への依存を高めていく傾向等を踏まえ、関係機関との適切な連携・役割分担の下、政府全体としての総合的な取組に寄与する。

エ 大規模災害等への対応

大規模災害等の発生に際しては、国民の生命・身体・財産を守るため、所要の部隊を迅速に輸送・展開し、初動対応に万全を期するとともに、必要に応じ、対応態勢を長期間にわたり持続する。また、被災者や被災した地方公共団体のニーズに丁寧に対応するとともに、関係機関、地方公共団体および民間部門と適切に連携・協力し、人命救助、応急復旧、生活支援等を行う。

オ 日米同盟に基づく米国との共同

平時から有事までのあらゆる段階において、「日米防衛協力のための指針」を踏まえ、日米同盟におけるわが国自身の役割を主体的に果たすことにより、2で後述するような日米共同の活動を効果的に実施する。

 

カ 安全保障協力の推進

地域の特性や相手国の実情を考慮した方針の下、共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、能力構築支援、軍種間交流を含む防衛協力・交流を戦略的に推進するなど、3で後述するような安全保障協力の強化のための取組を積極的に実施する。

2 日米同盟の強化

日米安全保障条約に基づく日米安全保障体制は、わが国自身の防衛体制とあいまって、わが国の安全保障の基軸である。また、日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、わが国のみならず、インド太平洋地域、さらには国際社会の平和と安定および繁栄に大きな役割を果たしている。

国家間の競争が顕在化する中、普遍的価値と戦略的利益を共有する米国との一層の関係強化は、わが国の安全保障にとってこれまで以上に重要となっている。また、米国も、同盟国との協力がより重要になっているとの認識を示している。

日米同盟は、平和安全法制により新たに可能となった活動等を通じて、これまでも強化されてきたが、わが国を取り巻く安全保障環境が格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増す中で、わが国の防衛の目標を達成するためには、「日米防衛協力のための指針」の下で、一層の強化を図ることが必要である。

 

日米同盟の一層の強化に当たっては、わが国が自らの防衛力を主体的・自主的に強化していくことが不可欠の前提であり、その上で、同盟の抑止力・対処力の強化、幅広い分野における協力の強化・拡大および在日米軍駐留に関する施策の着実な実施のための取組を推進する必要がある。

(1)日米同盟の抑止力および対処力の強化

平時から有事までのあらゆる段階や災害等の発生時において、日米両国間の情報共有を強化するとともに、全ての関係機関を含む両国間の実効的かつ円滑な調整を行い、わが国の平和と安全を確保するためのあらゆる措置を講ずる。

このため、各種の運用協力および政策調整を一層深化させる。特に、宇宙領域やサイバー領域等における協力、総合ミサイル防空、共同訓練・演習、共同のISR活動および日米共同による柔軟に選択される抑止措置の拡大・深化、共同計画の策定・更新の推進、拡大抑止協議の深化等を図る。これらに加え、米軍の活動を支援するための後方支援や、米軍の艦艇、航空機等の防護といった取組を一層積極的に実施する。

 

(2)幅広い分野における協力の強化・拡大

自由で開かれた海洋秩序を維持・強化することを含め、望ましい安全保障環境を創出するため、インド太平洋地域における日米両国のプレゼンスを高めることも勘案しつつ、海洋分野等における能力構築支援、人道支援・災害救援、海賊対処等について、日米共同の活動を実施する。

また、日米共同の活動に当たり、日米がその能力を十分に発揮するため、装備、技術、施設、情報協力・情報保全等に関し、協力を強化・拡大する。

特に、日米共同の活動に資する装備品の共通化や各種ネットワークの共有を推進する。また、わが国周辺における米軍の持続的な活動を支援し、わが国装備品の高い可動率の確保にも資するため、米国製装備品の国内における整備能力を確保する。

また、日米の能力を効率的に強化すべく、防衛力強化の優先分野に係る共通の理解を促進しつつ、有償援助(FMS)調達の合理化による米国の高性能の装備品の効率的な取得、日米共同研究・開発等を推進する。

 

さらに、訓練施設や訓練区域を含む自衛隊施設および米軍施設・区域について、共同使用に係る協力や、強靱(きょうじん)性の向上のための取組を推進する。

(3)在日米軍駐留に関する施策の着実な実施

接受国支援を始めとするさまざまな施策を通じ、在日米軍の円滑かつ効果的な駐留を安定的に支えるとともに、在日米軍再編を着実に進め、米軍の抑止力を維持しつつ、地元の負担を軽減していく。

特に、沖縄については、安全保障上極めて重要な位置にあり、米軍の駐留が日米同盟の抑止力に大きく寄与している一方、在日米軍施設・区域の多くが集中していることを踏まえ、近年、米軍施設・区域の返還等の沖縄の負担軽減を一層推進してきているところであり、引き続き、普天間飛行場の移設を含む在沖縄米軍施設・区域の整理・統合・縮小、負担の分散等を着実に実施することにより、沖縄の負担軽減を図っていく。

3 安全保障協力の強化

自由で開かれたインド太平洋というビジョンを踏まえ、地域の特性や相手国の実情を考慮しつつ、多角的・多層的な安全保障協力を戦略的に推進する。その一環として、防衛力を積極的に活用し、共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、能力構築支援、軍種間交流を含む防衛協力・交流に取り組む。また、グローバルな安全保障上の課題への対応にも貢献する。こうした取組の実施に当たっては、外交政策との調整を十分に図るとともに、日米同盟を基軸として、普遍的価値や安全保障上の利益を共有する国々との緊密な連携を図る。

 

(1)防衛協力・交流の推進

オーストラリアとの間では、相互運用性の更なる向上等のため、外務・防衛閣僚協議(「2+2」)等の枠組みも活用しつつ、共同訓練・演習の拡充、防衛装備・技術協力を一層推進するとともに、地域の平和と安定のため、二国間で連携した能力構築支援等の協力を進める。また、普遍的価値と戦略的利益を共有する日米豪三国間の枠組みによる協力関係を一層強化する。

インドとの間では、戦略的な連携を強化する観点から、「2+2」等の枠組みも活用しつつ、海洋安全保障を始めとする幅広い分野において、共同訓練・演習や防衛装備・技術協力を中心とする協力を推進する。また、日米印三国間の連携を強化する。

東南アジア諸国との間では、地域協力の要となる東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心性・一体性の強化の動きを支援しつつ、共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、能力構築支援等の具体的な二国間・多国間協力を推進する。

 

韓国との間では、幅広い分野での防衛協力を進めるとともに、連携の基盤の確立に努める。また、地域における平和と安定を維持するため、日米韓三国間の連携を引き続き強化する。

英国やフランスとの間では、インド太平洋地域における海洋秩序の安定等のため、「2+2」等の枠組みも活用しつつ、より実践的な共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、二国間で連携した第三国との協力等を推進する。欧州諸国並びにNATOおよび欧州連合(EU)との協力を強化する。

カナダおよびニュージーランドとの間では、共同訓練・演習、二国間で連携した第三国との協力等を推進する。

中国との間では、相互理解・信頼関係を増進するため、多層的な対話や交流を推進する。この際、中国がインド太平洋地域の平和と安定のために責任ある建設的な役割を果たし、国際的な行動規範を遵守するとともに、軍事力強化に係る透明性を向上するよう引き続き促していく。また、両国間における不測の事態を回避すべく、「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」を両国間の信頼関係の構築に資する形で運用していく。中国によるわが国周辺海空域等における活動に対しては、冷静かつ毅然(きぜん)として対応する。

 

ロシアについては、相互理解・信頼関係の増進のため、「2+2」を始めとする安全保障対話、ハイレベル交流および幅広い部隊間交流を推進するとともに、共同訓練・演習を深化させる。

太平洋島嶼国との間では、自衛隊の部隊による寄港・寄航を行うとともに、各自衛隊の能力・特性を活かした交流や協力を推進する。

中央アジア・中東・アフリカ諸国との間では、協力関係の構築・強化を図るため、ハイレベルを含めた交流や国連平和維持活動に係る能力構築支援等の協力を推進する。

また、多国間枠組みについては、インド太平洋地域の安全保障分野に係る議論や協力・交流の重要な基盤となっている東アジア首脳会議(EAS)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)、ASEAN地域フォーラム(ARF)等を重視し、域内諸国間の協力・信頼関係の強化に貢献していく。

(2)グローバルな課題への対応

海洋における航行・飛行の自由や安全を確保する観点から、インド、スリランカ等の南アジア諸国、東南アジア諸国といったインド太平洋地域の沿岸国自身の海洋安全保障に関する能力の向上に資する協力を推進する。また、共同訓練・演習や部隊間交流、これらに合わせた積極的な寄港等を推進するとともに、関係国と協力した海賊への対応や海洋状況把握(MDA)の能力強化に係る協力等の取組を行う。

 

宇宙領域の利用については、関係国との協議や情報共有、多国間演習への積極的な参加等を通じ、宇宙状況監視(SSA)や宇宙システム全体の機能保証等を含めたさまざまな分野での連携・協力を推進する。また、サイバー領域の利用については、脅威認識の共有、サイバー攻撃対処に関する意見交換、多国間演習への参加等により、関係国との連携・協力を強化する。

大量破壊兵器およびその運搬手段となり得るミサイルの拡散や武器および軍事転用可能な貨物・機微技術の拡散については、関係国や国際機関等と協力しつつ、それらの不拡散のための取組を推進する。また、自衛隊が保有する知見・人材を活用しつつ、自律型致死兵器システム(LAWS)に関する議論を含む国際連合等による軍備管理・軍縮に係る諸活動に関与する。

国際平和協力活動等については、平和安全法制も踏まえ、派遣の意義、派遣先国の情勢、わが国との政治・経済的関係等を総合的に勘案しながら、主体的に推進する。特に、これまでに蓄積した経験を活かし、人材育成等に取り組みつつ、現地ミッション司令部要員等の派遣や我が国が得意とする分野における能力構築支援等の活動を通じ積極的に貢献する。なお、ジブチ共和国において海賊対処のために運営している自衛隊の活動拠点について、地域における安全保障協力等のための長期的・安定的な活用に向け取り組む。

 

IV 防衛力強化に当たっての優先事項

1 基本的考え方

防衛力の強化は、格段に速度を増す安全保障環境の変化に対応するために、従来とは抜本的に異なる速度で行わなければならない。また、人口減少と少子高齢化の急速な進展や厳しい財政状況を踏まえれば、予算・人員をこれまで以上に効率的に活用することが必要不可欠である。

このため、防衛力の強化に当たっては、特に優先すべき事項について、可能な限り早期に強化することとし、既存の予算・人員の配分に固執することなく、資源を柔軟かつ重点的に配分するほか、所要の抜本的な改革を行う。

この際、あらゆる分野での陸海空自衛隊の統合を一層推進し、縦割りに陥ることなく、組織および装備を最適化する。特に、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力、総合ミサイル防空、被害復旧、輸送、整備、補給、警備、教育、衛生、研究等の幅広い分野において統合を推進する。

一方、主に冷戦期に想定されていた大規模な陸上兵力を動員した着上陸侵攻のような侵略事態への備えについては、将来における情勢の変化に対応するための最小限の専門的知見や技能の維持・継承に必要な範囲に限り保持することとし、より徹底した効率化・合理化を図る。

 

2 領域横断作戦に必要な能力の強化における優先事項

(1)宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力の獲得・強化

領域横断作戦を実現するため、優先的な資源配分やわが国の優れた科学技術の活用により、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力を獲得・強化する。この際、新たな領域を含む全ての領域における能力を効果的に連接する指揮統制・情報通信能力の強化・防護を図る。

ア 宇宙領域における能力

情報収集、通信、測位等のための人工衛星の活用は領域横断作戦の実現に不可欠である一方、宇宙空間の安定的利用に対する脅威は増大している。

このため、宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位等の各種能力を一層向上させるとともに、宇宙空間の状況を地上および宇宙空間から常時継続的に監視する体制を構築する。また、機能保証のための能力や相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力を含め、平時から有事までのあらゆる段階において宇宙利用の優位を確保するための能力の強化に取り組む。

 

その際、民生技術を積極的に活用するとともに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)等の関係機関や米国等の関係国との連携強化を図る。また、宇宙領域を専門とする部隊や職種の新設等の体制構築を行うとともに、宇宙分野での人材育成と知見の蓄積を進める。

イ サイバー領域における能力

サイバー領域を活用した情報通信ネットワークは、さまざまな領域における自衛隊の活動の基盤であり、これに対する攻撃は、自衛隊の組織的な活動に重大な障害を生じさせるため、こうした攻撃を未然に防止するための自衛隊の指揮通信システムやネットワークに係る常時継続的な監視能力や被害の局限、被害復旧等の必要な措置を迅速に行う能力を引き続き強化する。また、有事において、わが国への攻撃に際して当該攻撃に用いられる相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力等、サイバー防衛能力の抜本的強化を図る。

その際、専門的な知識・技術を持つ人材を大幅に増強するとともに、政府全体の取組への寄与にも留意する。

 

ウ 電磁波領域における能力

電磁波は、活用範囲や用途の拡大により、現在の戦闘様相における攻防の最前線として、主要な領域の一つと認識されるようになってきている。電磁波領域の優越を確保することも、領域横断作戦の実現のために不可欠である。

このため、情報通信能力の強化、電磁波に関する情報収集・分析能力の強化および情報共有態勢の構築を推進するとともに、相手からの電磁波領域における妨害等に際して、その効果を局限する能力等を向上させる。また、わが国に対する侵攻を企図する相手方のレーダーや通信等を無力化するための能力を強化する。こうした各種活動を円滑に行うため、電磁波の利用を適切に管理・調整する機能を強化する。

(2)従来の領域における能力の強化

領域横断作戦の中で、宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力と一体となって、航空機、艦艇、ミサイル等による攻撃に効果的に対処するための能力を強化する。

ア 海空領域における能力

わが国への攻撃に実効的に対応するため、海上優勢・航空優勢を獲得・維持することが極めて重要である。

このため、わが国周辺海空域における常続監視を広域にわたって実施する態勢を強化する。

また、無人水中航走体(UUV)を含む水中・水上における対処能力を強化する。

さらに、柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機を含む戦闘機体系の構築等により、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ないわが国太平洋側を始め、空における対処能力を強化する。その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性をさらに向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずる。

イ スタンド・オフ防衛能力

各国の早期警戒管制能力や各種ミサイルの性能が著しく向上していく中、自衛隊員の安全を確保しつつ、わが国への攻撃を効果的に阻止する必要がある。

 

このため、島嶼部を含むわが国への侵攻を試みる艦艇や上陸部隊等に対して、脅威圏の外からの対処を行うためのスタンド・オフ火力等の必要な能力を獲得するとともに、軍事技術の進展等に適切に対応できるよう、関連する技術の総合的な研究開発を含め、迅速かつ柔軟に強化する。

ウ 総合ミサイル防空能力

弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機等の多様化・複雑化する経空脅威に対し、最適な手段による効果的・効率的な対処を行い、被害を局限する必要がある。

このため、ミサイル防衛に係る各種装備品に加え、従来、各自衛隊で個別に運用してきた防空のための各種装備品も併せ、一体的に運用する体制を確立し、平素から常時持続的にわが国全土を防護するとともに、多数の複合的な経空脅威にも同時対処できる能力を強化する。将来的な経空脅威への対処の在り方についても検討を行う。

また、日米間の基本的な役割分担を踏まえ、日米同盟全体の抑止力の強化のため、ミサイル発射手段等に対するわが国の対応能力の在り方についても引き続き検討の上、必要な措置を講ずる。

 

エ 機動・展開能力

島嶼部への攻撃を始めとする各種事態に実効的に対応するためには、適切な地域で所要の部隊が平素から常時継続的に活動するとともに、状況に応じた機動・展開を行うことが必要である。

このため、水陸両用作戦能力等を強化する。また、迅速かつ大規模な輸送のため、島嶼部の特性に応じた基幹輸送および端末輸送の能力を含む統合輸送能力を強化するとともに、平素から民間輸送力との連携を図る。

(3)持続性・強靱性の強化

平時から有事までのあらゆる段階において、必要とされる各種活動を継続的に実施できるよう、後方分野も含めた防衛力の持続性・強靱性を強化することが必要である。

このため、弾薬、燃料等の確保、海上輸送路の確保、重要インフラの防護等に必要な措置を推進する。特に、関係省庁等とも連携を図りつつ、弾薬、燃料等の安全かつ着実な整備・備蓄等により持続性を向上させる。また、自衛隊の運用に係る基盤等の分散、復旧、代替等により、多層的に強靱性を向上させる。さらに、従来の維持整備方法の見直し等により、より効果的・効率的な維持整備を図り、装備品の高い可動率を確保する。

 

3 防衛力の中心的な構成要素の強化における優先事項

(1)人的基盤の強化

防衛力の中核は自衛隊員であり、自衛隊員の人材確保と能力・士気の向上は防衛力の強化に不可欠である。これらは人口減少と少子高齢化の急速な進展によって喫緊の課題となっており、防衛力の持続性・強靱(きょうじん)性の観点からも、自衛隊員を支える人的基盤の強化をこれまで以上に推進していく必要がある。

このため、地方公共団体等との連携を含む募集施策の推進、大卒者等を含む採用層の拡大や女性の活躍推進のための取組、自衛官の定年年齢の適切な引き上げや退職自衛官の活用、予備自衛官等の活用や充足向上のための取組といった、より幅広い層から多様かつ優秀な人材を確保するための制度面を含む取組に加え、人工知能等の技術革新の成果を活用した無人化・省人化を推進する。

 

また、全ての自衛隊員が高い士気を維持し自らの能力を十分に発揮し続けられるよう、生活・勤務環境の改善を図るとともに、ワークライフバランスの確保のため、防衛省・自衛隊における働き方改革を推進する。

さらに、統合教育・研究の強化等、自衛隊の能力およびその一体性を高めるための教育・研究の充実を促進するほか、防衛省・自衛隊の組織マネジメント能力に関する教育の強化を図る。これらに加え、栄典・礼遇に関する施策の推進、任務の特殊性等を踏まえた給与面の改善といった処遇の向上や、若年定年退職制度の下にある自衛官の生活基盤の確保が国の責務であることを踏まえた再就職支援の一層の充実を図る。

(2)装備体系の見直し

現有の装備体系を統合運用の観点も踏まえて検証し、合理的な装備体系を構築する。その際、各自衛隊の運用に必要な能力等を踏まえつつ、装備品のファミリー化、装備品の仕様の最適化・共通化、各自衛隊が共通して保有する装備品の共同調達等を行うとともに、航空機等の種類の削減、重要度の低下した装備品の運用停止、費用対効果の低いプロジェクトの見直しや中止等を行う。

 

(3)技術基盤の強化

軍事技術の進展を背景に戦闘様相が大きく変化する中、わが国の優れた科学技術を活かし、政府全体として、防衛装備に繋がる技術基盤を強化することがこれまで以上に重要となっている。

このため、新たな領域に関する技術や、人工知能等のゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術を始めとする重要技術に対して選択と集中による重点的な投資を行うとともに、研究開発のプロセスの合理化等により研究開発期間の大幅な短縮を図る。この際、企画提案方式の積極的な活用や、今後のわが国の防衛に必要な能力に関する研究開発ビジョンの策定等による予見可能性の向上により、企業の先行投資の促進を図るとともに、その力を最大限に引き出す。

さらに、国内外の関係機関との技術交流や関係府省との連携の強化、安全保障技術研究推進制度の活用等を通じ、防衛にも応用可能な先進的な民生技術の積極的な活用に努める。

国内外の先端技術動向について調査・分析等を行うシンクタンクの活用や創設等により、革新的・萌芽(ほうが)的な技術の早期発掘やその育成に向けた体制を強化する。

 

(4)装備調達の最適化

自衛隊の装備品の質および量を必要かつ十分に確保するためには、高性能の装備品を可能な限り安価に取得する必要があり、予算の計上のみならず執行に際しても、徹底したコスト管理・抑制を行う必要がある。

このため、長期契約を含め、装備品の効率的な調達に資する計画的な取得方法の活用や維持整備の効率化を推進する。また、国内外の企業間競争の促進を図るとともに、国際共同開発・生産や海外移転も念頭に置いた装備品の開発等を推進する。さらに、米国の高性能な装備品を効率的に調達するため、FMS調達の合理化を推進するとともに、米軍等との調達時期・仕様の整合に努める。これらに際しては、ライフサイクル全体を通じたプロジェクト管理の取組をさらに強化する。

(5)産業基盤の強靱化

我が国の防衛産業は、装備品の生産・運用・維持整備に必要不可欠の基盤である。高性能な装備品の生産と高い可動率を確保するため、少量多種生産による高コスト化、国際競争力の不足等の課題を克服し、変化する安全保障環境に的確に対応できるよう、産業基盤を強靱化する必要がある。

このため、装備体系、技術基盤および装備調達に係る各種施策に加え、企業へのインセンティブの付与も含め、企業間の競争環境の創出に向けた契約制度の見直しを行う。また、装備品のサプライチェーンのリスク管理を強化するとともに、輸入装備品等の維持整備等にわが国の防衛産業がさらに参画できるよう努める。さらに、わが国の安全保障に資する場合等に装備移転を認め得るとする防衛装備移転三原則の下、装備品の適切な海外移転を政府一体となって推進するため、必要な運用改善に努める。同時に、装備品に係る重要技術の流出を防ぐため、知的財産管理、技術管理および情報保全の強化を進める。以上の各種施策を通じて、コストダウンと企業競争力の向上を図ることにより、強靱な産業基盤の構築を目指すとともに、そのための更なる方策についても検討していく。

(6)情報機能の強化

政策判断や部隊運用に資する情報支援を適時・適切に実施するため、情報機能を強化する。特に、各種事態等の兆候を早期に察知し迅速に対応するとともに、中長期的な軍事動向等を踏まえた各種対応を行うため、情報の収集・処理、分析・共有、保全の各段階における機能を強化する。

その際、情報処理分野における技術動向にも留意しつつ、新たな領域に係るものも含め、電波情報、画像情報、人的情報、公開情報等に関する収集能力・態勢を強化するとともに、情報収集衛星を運用する内閣衛星情報センター等の国内の関係機関や同盟国等との連携を強化する。また、情報収集・分析要員の確保・育成や、情報共有のためのシステムの整備・連接等を進める。さらに、より強固な情報保全体制を確立するとともに、カウンターインテリジェンスに係る機能を強化する。

V 自衛隊の体制等

宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を含め、領域横断作戦を実現するため、1のとおり統合運用を強化するとともに、各自衛隊の体制を2から4までのとおり整備することとする。また、将来の主要な編成、装備等の具体的規模については、別表のとおりとする。

1 領域横断作戦の実現のための統合運用

(1)あらゆる分野で陸海空自衛隊の統合を一層推進するため、自衛隊全体の効果的な能力発揮を迅速に実現し得る効率的な部隊運用態勢や新たな領域に係る態勢を統合幕僚監部において強化するとともに、将来的な統合運用の在り方について検討する。また、各自衛隊間の相互協力の観点を踏まえた警備および被害復旧に係る態勢を構築するなど、各自衛隊の要員の柔軟な活用を図る。

(2)宇宙空間の状況を常時継続的に監視するとともに、機能保証や相手方の指揮統制・情報通信を妨げることを含め、平時から有事までのあらゆる段階において宇宙利用の優位を確保し得るよう、航空自衛隊において宇宙領域専門部隊を保持するとともに、統合運用に係る態勢を強化する。

(3)自衛隊の情報通信ネットワークを常時継続的に監視するとともに、わが国への攻撃に際して当該攻撃に用いられる相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力等、サイバー防衛能力を抜本的に強化し得るよう、共同の部隊としてサイバー防衛部隊を保持する。

(4)電磁波の利用を統合運用の観点から適切に管理・調整し得るよう、統合幕僚監部における態勢を強化する。また、電磁波領域に係る情報収集・分析や、侵攻を企図する相手方のレーダーや通信等の無力化を行い得るよう、各自衛隊における態勢を強化する。

(5)平素から常時持続的にわが国全土を防護するとともに、多数の複合的な経空脅威に同時対処し得るよう、陸上自衛隊において地対空誘導弾部隊および弾道ミサイル防衛部隊、海上自衛隊においてイージス・システム搭載護衛艦、航空自衛隊において地対空誘導弾部隊を保持し、これらを含む総合ミサイル防空能力を構築する。

(6)平時から有事までのあらゆる段階において、統合運用の下、自衛隊の部隊等の迅速な機動・展開を行い得るよう、共同の部隊として海上輸送部隊を保持する。

2 陸上自衛隊の体制

(1)各種事態に即応し得るよう、高い機動力や警戒監視能力を備え、機動運用を基本とする作戦基本部隊(機動師団、機動旅団および機甲師団)のほか、サイバー領域や電磁波領域における各種作戦、空挺、水陸両用作戦、特殊作戦、航空輸送、特殊武器防護、各国等との安全保障協力等を有効に実施し得るよう、専門的機能を備えた部隊を、機動運用部隊として保持する。

この際、良好な訓練環境を踏まえ、統合輸送能力により迅速に展開・移動させることを前提として、高い練度を維持した機動運用を基本とする作戦基本部隊の半数を北海道に保持する。

また、水陸機動団等の機動運用部隊による艦艇と連携した活動や各種の訓練・演習といった平素からの常時継続的な機動、自衛隊配備の空白地域となっている島嶼(とうしょ)部への部隊配備、海上自衛隊および航空自衛隊とのネットワーク化の確立等により、抑止力・対処力の強化を図る。

(2)島嶼部等に対する侵攻に対処し得るよう、地対艦誘導弾部隊および島嶼防衛用高速滑空弾部隊を保持する。

(3)(1)に示す機動運用を基本とする部隊以外の作戦基本部隊(師団・旅団)について、戦車および火砲を中心として部隊の編成・装備を見直すほか、各方面隊直轄部隊についても航空火力に係る部隊の編成・装備を見直し、効率化・合理化を徹底した上で、地域の特性に応じて適切に配置する。

3 海上自衛隊の体制

(1)常続監視や対潜戦・対機雷戦等の各種作戦の効果的な遂行による周辺海域の防衛や海上交通の安全確保、各国等との安全保障協力等を機動的に実施し得るよう、多様な任務への対応能力を向上させた護衛艦等を含む増強された護衛艦部隊、掃海艦艇部隊および艦載回転翼哨戒機部隊を保持し、これら護衛艦部隊および掃海艦艇部隊から構成される水上艦艇部隊を編成する。また、わが国周辺海域における平素からの警戒監視を強化し得るよう、哨戒艦部隊を保持する。

 

その際、多様な任務への対応能力を向上させた護衛艦について、複数クルーでの交替勤務の導入や、警戒監視能力に優れた哨戒艦との連携により、常続監視のための態勢を強化する。

(2)水中における情報収集・警戒監視を平素からわが国周辺海域で広域にわたり実施するとともに、周辺海域の哨戒および防衛を有効に行い得るよう、増強された潜水艦部隊を保持する。

その際、試験潜水艦の導入により、潜水艦部隊の運用効率化と能力向上の加速を図り、常続監視のための態勢を強化する。

(3)洋上における情報収集・警戒監視を平素からわが国周辺海域で広域にわたり実施するとともに、周辺海域の哨戒および防衛を有効に行い得るよう、固定翼哨戒機部隊を保持する。

4 航空自衛隊の体制

(1)太平洋側の広大な空域を含むわが国周辺空域の常時継続的な警戒監視等を行い得る警戒管制部隊のほか、グレーゾーンの事態等の情勢緊迫時において、長期間にわたり空中における警戒監視・管制を有効に行い得る増強された警戒航空部隊からなる航空警戒管制部隊を保持する。

 

(2)太平洋側の広大な空域を含むわが国周辺空域において、戦闘機とその支援機能が一体となってわが国の防空等を総合的な態勢で行い得るよう、能力の高い戦闘機で増強された戦闘機部隊を保持する。また、戦闘機部隊、警戒航空部隊等が各種作戦を広域かつ持続的に遂行し得るよう、増強された空中給油・輸送部隊を保持する。

(3)陸上部隊等の機動・展開、各国等との安全保障協力等を効果的に実施し得るよう、航空輸送部隊を保持する。

(4)わが国から比較的離れた地域での情報収集や事態が緊迫した際の空中での常時継続的な監視を実施し得るよう、無人機部隊を保持する。

VI 防衛力を支える要素

防衛力がその真価を発揮するためには、平素から絶えずその能力を維持・向上させるとともに、国民の幅広い理解を得ることが必要である。

1 訓練・演習

自衛隊の戦術技量の維持・向上のため、必要に応じて、関係機関、地方公共団体や民間部門とも連携しながら、より実践的で効果的かつ計画的な訓練・演習を実施する。その際、より実践的に訓練を行うため、北海道を始めとした国内の演習場等や国外の良好な訓練環境の整備・活用に加え、米軍施設・区域の共同使用、自衛隊施設や米軍施設・区域以外の場所の利用等を促進するとともに、シミュレーター等をより積極的に導入する。さらに、事態に対処するための各種計画を不断に検証し、見直すため、訓練・演習を積極的に活用する。

 

2 衛生

自衛隊員の壮健性を維持するとともに、各種事態への対処や国内外における多様な任務に対応し得るよう、衛生機能を強化する必要がある。

このため、隊員の生命を最大限守れるよう、第一線から最終後送先までのシームレスな医療・後送態勢を強化する。その際、地域の特性を踏まえつつ、南西地域における自衛隊の衛生機能の強化を重視する。また、自衛隊病院の拠点化・高機能化等により、効率的で質の高い医療体制を確立する。さらに、自衛隊の部隊の衛生に係る人材確保のため、防衛医科大学校の運営改善を始めとする取組や、戦傷医療対処能力の向上を含む教育・研究を充実・強化する。このほか、能力構築支援を含むさまざまな国際協力に必要な態勢の整備を推進する。

3 地域コミュニティーとの連携

一層厳しさと不確実性を増す安全保障環境の下、自衛隊および在日米軍の活動および訓練・演習の多様化、装備品の高度化等が進んでおり、防衛施設周辺の地方公共団体や地元住民の理解および協力を得ることはこれまで以上に重要となっている。

 

このため、地方公共団体や地元住民に対し、平素から防衛省・自衛隊の政策や活動に関する積極的な広報を行うとともに、自衛隊および在日米軍の部隊や装備品の配備、訓練・演習等の実施に当たっては、地元に対する説明責任を十分に果たしながら、地元の要望や情勢に応じたきめ細かな調整を実施する。同時に、騒音等への対策を含む防衛施設周辺対策事業を引き続き推進する。

また、各種事態において自衛隊が迅速かつ確実に活動を行うため、地方公共団体、警察・消防機関といった関係機関との連携を一層強化する。

地方によっては、自衛隊の部隊の存在が地域コミュニティーの維持・活性化に大きく貢献し、あるいは、自衛隊による急患輸送が地域医療を支えている場合等が存在することを踏まえ、部隊の改編や駐屯地・基地等の配置に当たっては、地方公共団体や地元住民の理解を得られるよう、地域の特性に配慮する。同時に、駐屯地・基地等の運営に当たっては、地元経済への寄与に配慮する。

4 知的基盤

安全保障・危機管理に対する国民の理解を促進するため、教育機関等における安全保障教育の推進に取り組む。また、防衛省・自衛隊において、防衛研究所による研究と政策支援を高い水準で両立させるため、政策部門との間の連携を促進するとともに、防衛研究所を中心とする研究体制を一層強化する。その際、政府内の他の研究教育機関や国内外における優れた大学、シンクタンク等との教育・研究に係る組織的な連携を推進する。

VII 留意事項

1 本大綱に定める防衛力の在り方は、おおむね10年程度の期間を念頭に置いたものであり、各種施策・計画の実施過程を通じ、国家安全保障会議において定期的に体系的な評価を行う。また、安全保障環境の変化を見据え、真に実効的な防衛力を構築していくため、今後のわが国の防衛に必要な能力に関する検証を実施する。

2 評価・検証の中で、情勢に重要な変化が見込まれる場合には、その時点における安全保障環境等を勘案して検討を行い、所要の修正を行う。

3 格段に厳しさを増す財政事情と国民生活に関わる他の予算の重要性等を勘案し、防衛力整備の一層の効率化・合理化を図り、経費の抑制に努めるとともに、国の他の諸施策との調和を図りつつ、防衛力全体として円滑に十全な機能を果たし得るようにする。

 

 

 

 

 

 

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