リオデジャネイロ五輪陸上男子50キロ競歩で、銅メダルを獲得した荒井広宙選手 (桐山弘太撮影/産経ニュースより引用)
多くのメダリストが誕生、自衛隊体育学校とは
活躍する自衛官アスリートたち
2012年のロンドン五輪で金メダルを獲得した、レスリング女子48キロ級の小原日登美選手、レスリング男子フリースタイル66キロ級の米満達弘選手、銅メダルを獲得したレスリング男子フリースタイル55キロ級の湯元進一選手とボクシング男子バンタム級の清水聡選手。またその次の2016年のリオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得した、陸上男子50キロ競歩の荒井広宙選手と水泳の江原騎士選手。自衛官アスリートたちの活躍によって、所属する「自衛隊体育学校」も脚光を浴びました。選手たちが日々練習に励む自衛隊の施設とはどのようなところなのでしょうか。
自衛隊の教育機関のひとつ
オリンピックに出場する選手の多くは企業の実業団などに所属していますが、自衛官の選手は、自衛隊の組織のひとつである自衛隊体育学校に所属しています。『オリンピックなどの国際級選手の育成』『部隊での体育指導者の育成』『体育能力に関する調査研究』という理念のもと、体育指導者を目指す自衛官や選手たちが全国の基地や駐屯地から集まり、日夜トレーニングに励んでいます。
学校には、部隊の体育指導者を育成する「第1教育課」(一般体育課程)と、国際大会で活躍できる選手を育成する「第2教育課」(特別体育課程)があり、全天候型トラック競技場や水連公認の50メートルプール、最新のトレーニング機器などを揃えています。
自衛隊体育学校(JSDF Physical Training School)とは、陸上自衛隊朝霞駐屯地内に設置されている、陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の共同の機関の一つである。自衛隊員の体育指導に必要な知識及び技能を習得させるための教育訓練を行うとともに、体育に関する調査研究を行うことを任務とする。
オリンピック競技大会では、いくつかの競技の拠点としても自衛隊が関わっています。
専用のグラウンド・体育館・屋内プール・射撃場など充実した設備を保有している。また、自衛隊で唯一、馬を飼育しているため、馬術が必須である近代五種競技の訓練も可能である。
軍とスポーツの関わり
近代オリンピックでは、各国で数多くの軍人が競技者として出場して素晴らしい成績を上げていました。スポーツが国家の強さを示すひとつの目安だと考えれば、軍人とスポーツの関わりは古くから自然なことでした。
東京オリンピックの誘致が決まった1960年代初頭、国際競技大会での日本の成績は振るわず、メダルを狙える選手の育成は国を挙げて取り組むべき重要事項でした。開催国としての面子のため、そして選手たちに何としてでもメダルを獲得してもらいたいという期待感から、オリンピックで活躍できる選手の育成が急がれていたのです。そのため、当時の防衛庁長官、江崎真澄(えさきますみ)の発案により、戦前の陸軍戸山学校をモデルにして計画され、1961年8月に、陸・海・空自衛隊の選手養成機関として自衛隊体育学校が朝霞駐屯地に創設されました。
現在でもレスリングやボクシング、近代五種、柔道などの種目に、世界各国の数多くの軍人が出場しています。オリンピックだけでなく、ミリタリー・ワールドゲームズという世界大会も4年に一度開催されていて、軍人のスポーツ大会は盛んになっています。
18人のメダリストを排出
1964年、東京オリンピックが開催されると、体育学校所属の選手は国の威信をかけて各種競技に出場しました。金メダルを獲った重量挙げフェザー級の三宅義信(みやけよしのぶ)選手やマラソンの円谷幸吉(つぶらやこうきち)選手は、体育学校の第1期生です。
自衛隊体育学校は、1964年の東京五輪からリオデジャネイロ五輪まで夏季すべての12大会(不参加の1980年モスクワ五輪を除く)に代表選手を輩出し、これまでに金メダリスト8人を含む18人のメダリストを誕生させました。
自衛隊体育学校の訓え
練磨5訓という日常生活でも通用する訓え(おしえ)が自衛官アスリートたちを支えています。
2 敵に勝つ前に己に克て
3 積極攻勢こそが勝利への要道
4 自ら技を工夫せずして勝利なし
5 技は心と身体の一体と知れ
広報展示室の見学
学校内には広報展示室があり、これまでに獲得したメダルや選手の写真などが飾られています。1968年メキシコ五輪でのレスリング・フリースタイル52kg級で中田茂男選手が獲得した金メダルや、円谷幸吉選手のシューズ、日本代表選手のブレザーなどが展示されていて、体育学校の歴史と伝統を感じることができます。展示室や施設の見学を希望する場合は、自衛隊体育学校渉外広報室まで問い合わせが必要です。
自衛官アスリートへの道
体育学校に入学するには
② 自衛官採用試験に合格すること
③ 選考課程にて選考されること
そしてオリンピックを目指すためには、特別体育課程というコースに入らなければなりません。この課程はオリンピックに出場して活躍することが任務で、オリンピックに出場することに特化されています。
特別体育課程学生とは
特別体育課程に必要な競技成績の基準は、
・全日本学生選手権3位以内、全日本選手権3位以内
② 高卒等(卒業や卒業見込含む)の場合
・高校卒業者 全国高等学校総合体育大会8位以内
③ 大学卒業者、特別体育課程学生の条件を満たさないが将来的に有望な資質を持っている選手
このように競技成績の基準で分けられていて、大学生等で3位以内の成績で入隊する場合は最初から「特別体育課程」の学生となるので、自衛官としての基本教育からいきなり自衛隊体育学校に入ります。そしてオリンピックを目指して専門の訓練が施されます。高卒等の場合は、入隊後に自衛官としての基本教育を受けることは同じですが、このコースの場合、一旦現場部隊に配属されます。その後に自衛隊体育学校が行なっている訓練に参加し、そこで選考された場合にのみ「特別体育課程」に進むことができます。
アスリートを引退した後は
② 陸海空自衛隊の各部隊の体育指導者として配属
③ 他の職種の教育を受けて、新たな職種の隊員として配属
競技者としてではなく、指導者や新たな職種の自衛官として活躍することができるのです。
東京オリンピック開催まであと2年
体育学校のフォトギャラリーページでは東京オリンピックを目指す現役自衛官たちの姿を見ることができます。
数々のオリンピアンを生んだ自衛隊体育学校。2020年の東京オリンピックでは、11種目全てにおいて日本代表選手の輩出とメダルの獲得を目指しています。オリンピック開催まで2年を切りましたが、様々な競技で活躍する自衛官アスリートたちの活躍が今から楽しみです。
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